(上の写真:結いのき・花沢2号館会議室にて 左から井上さん、江口さん)
長井市 江口忠博さん(塗師 江口漆器工芸)
米沢市 井上肇さん(結いのき)
POINT | ①地元に深く関与した活動 ②地域資源のフル活用 ③大学との協働開始 |
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今回紹介する江口忠博さんと井上肇さんがお住まいの山形県置賜地域は、北に朝日岳から遠くは出羽三山を望み、東方に蔵王山、南西方面で福島県会津地域および新潟県下越地域と接する広い盆地で、豊富な水と森林資源を擁し、一次産業、特に米沢牛と果樹生産で有名な地区です。
江口さんは、現在、県内で数少ない塗師(ぬし)のお一人で、家業の江口漆器工芸の第五代目です。(置賜のふるさと工芸品⑧【江口漆器工芸(山形県長井市)】を参照)
本業の傍ら注力されているのが、長井市民とともに取り組んでいる『レインボープラン』(正式名称 台所と農業をつなぐながい計画)です。
同プランの発端は1985年、市内でのある会議の議論でした。農業従事者からの土が弱っているという意見を契機に、有機堆肥を田畑に投入する環境保全型農業が必要と再認識され、原料を台所から排出される生ごみに求めることになりました。
その後、市民からの提案は行政側の支援も得、実証を経て1997年に本格稼動を開始しました。 当時は、メディアで壮大な社会実験として取り上げられ、山形県では協働のまちづくりのモデルとして位置付けられました。特に重要な点は、堆肥が全量市内の田畑に戻され、そこで生産された作物を再び市民の台所に提供するという地域内完結型の資源循環システムであることです。
レインボープランは、理念の一つに「土はいのちのみなもと」という言葉を掲げています。消費者が堆肥原料を提供することで土づくりに参加し、生産者は消費者の健康づくりに貢献していく営みは、資源循環システムのその先にある、地域の全員がゆるぎない繋がりをもとにした、いわば「命つなげる地域」を目指す故郷づくりでもある、とのことです。
井上さんは、長く米沢生活協同組合に勤務され、現在は、生活クラブ やまがた生活協同組合 理事長を経て、特別顧問、特定非営利活動法人 結いのき 専務理事等の役職に就かれています。
2007年12月に結いのきを設立、協同互助の精神に基づき、高齢者等が地域とともに共生、自立して、介護保険等にできるだけ依存しない暮らしを目指す先進的な取り組みです。事業は①高齢者共同運営住宅「グループリビング」施設2棟の建設運営、②協同センター「デポー・カフェ」の運営、③宅配見守り弁当・宅配けんこう弁当の販売などで収入を確保しつつ、入居者や利用者に還元する仕組みです。また、一方では1日30人利用の「デイサービスセンター」も経営しています。
江口さんによれば、井上さんは地元経済界や自治体から絶大な信頼があるとのこと。結いのきの設立、それに続く高齢者共同運営住宅の建設・稼働に当たっては、企業、自治体、金融機関、市民団体などから多くの支援と協力を頂いています。
現在、レインボープランや結いのきの活動は、踊り場に差し掛かっているようです。置賜地域は首都圏に近いこともあり県全体を上回るスピードで人口が減少していることに加え、前者は関連設備の老朽化や世代交代による地元での認知度低下もあるとのことです。
お二方が役員として参加している一般社団法人 置賜自給圏推進機構では、同地域内での経済活動や通勤・通学行動の現状も踏まえ、自治体の境界を越えたダイナミックな取組を模索しています。
具体的シナリオとしては、次世代のレインボープランでの対象地域拡大、多世代間での更なる協働、そして、何よりも地域資源をフル活用し、一次産品やエネルギーの自給および地域内取引と地域外への移出拡大による、地域所得の増大です。
同機構では山形大学や東京大学等の協力を得て研究会を開始しました。今後、具体的なビジネスプランの作成や実証実験の展開につなげていくことが期待されます。
お近くにお住まいの方やこの記事に興味を持たれた方は、是非、お二人の活動にご参加ください。